保育士と労働組合

以前にも書いたのですが、私はフルタイムで働いている非正規の保育士です。正規の職員と内容も責任も全く同じ仕事をしています。私が保育士として働く上で職場に対する一番の要求は正規職員になることであり、私の周りにも同じ思いを持っている非正規保育士がたくさんいます。
私が今年の3月までいた保育園には労働組合があり、年に何度も理事会側と団体交渉を行うなど、それなりに活発な運動をしていました。でも私はそこで活動する意義がなかなか見出せませんでした。
その労働組合が一番力を入れて取り組む課題は賞与を何ヶ月分にするかという点です。前の職場では非正規職員にも賞与が支給されていたので、たしかに全ての職員に関わる課題と言うことはできます。でもそれは非正規職員にとって一番の要求ではありません。組合は「年々賞与が減っていっている」と危機感を表しますが、それは非正規職員には共有できません。前の職場ではフルタイム非正規だと3年で雇い止めになるので、年々賞与が減っていくことはそんなに関係が無いのです。逆に年々賞与が増えていっても、3年で雇い止めになるなら、やはりそんなに重要な問題ではありません。賞与は多ければ嬉しいな、という程度のものです。それよりも私達非正規職員の不安は「この職場でずっと働き続けられるのか」ということです。残念ながら私は正規職員になれなかったので、3年働いた保育園を去って今の職場にいます。
前の職場の組合は、非正規問題にあまり熱心ではなかったように思います。毎年の春闘・秋闘では、「臨時・パート職員が希望する場合には、正規職員での採用の機会を保障してください。特に、労働契約が2年目以降の臨時職員については今後の処遇について考慮してください。」と要求書に書かれますが、これが本気の要求なのかということが問われると思うのです。結局、理事会側からは「全員を正職員にしたいけど難しい」という回答が毎回のように出されるだけで終わっていました。ひねくれ者の私は「非正規問題も考えていますよ」という組合側・理事会側によるセレモニーではないかと感じていました。
驚いたのは組合の会議で出された活動方針案に「…今後も非正規職員が増えていくと予想されますが…」と書いてあったことです。あれ?非正規を正規にしていく運動をしていたんじゃないの?と思いました。結局、組合側も非正規が増えていくことは仕方ないと思っていたということです。さすがに頭にきてその場で訂正を求めてその文は削除されました。
職場の組合会議でも、ずっと黙っていた思いを吐露しました。非正規にとってはこの保育園に残れるかどうかが大事なんだ、ずっとここで働いていたいんだって。みんな真剣に聴いてくれたし、思いをわかってくれたと思います。でもその後も組合の取り組みに変化はありませんでした。遠慮なんかせずにもっともっと言っておけば良かったと今は思います。
組合は「臨時・パート職員が希望する場合には、正規職員での採用の機会を保障してください。特に、労働契約が2年目以降の臨時職員については今後の処遇について考慮してください。」なんて奥歯に物がはさまったような言い方じゃなくて、「全ての非正規職員を正規職員にしてください」(自分から短時間での雇用を望む人はまた別ですが)と要求書に書くべきです。そうでなければ理事会側も本気でそのことを検討することはないでしょう。それこそ「考慮」したけど「難しい」で終わってしまいます。今までそれで終わっていました。これからも職場で非正規雇用の比率が増えていくと予想しているのなら、組合はその非正規職員の要求を汲み上げていかなければ、組合自体が無くなります。
正規と非正規では要求が違います。職場に雇用形態の違う職員がいれば、労働者同士を分断させるなんて簡単なことです。それが政府とか財界の狙いだとすれば、私はまさに手の平上なのかもしれません。でも、全員を正職員にすれば団結できる条件が広がるはずです。賞与が団体交渉の軸になるというのは昔からの流れなのかもしれませんが、今の組合活動はそれではもうやっていけない状況だと思います。
それぞれの保育園にもよりますが、おそらく前の職場では理事会側も別に労働者から搾り取りたいと思っているわけではなかったと思います。そもそも保育園のお金が自治体を通して国から来るものなのだから、限りあるお金をどうするかで悩むよりも、国や自治体からどう引っぱってくるかと発想を変える方がいいのではないでしょうか。前の職場の組合は、まるで一番の敵は理事会、という雰囲気でした。どうして保育園にお金が無いのか。それは国が大企業のための政治をしているからです。そのことを理事会も組合も一緒になってもっともっと訴えるべきだと思います。本質的な問題に切り込まないで、賞与を何ヶ月にするかという議論を延々とする団体交渉には本当に疲れました。
私は前の職場に残りたかった。担任した子ども達をずっと見ていたかった。保育園ではいずれみんな卒園していきますから、別れは必然で仕方ありません。でも、そんなめでたいお別れなんかじゃありませんでした。雇い止めです。今でも納得していません。
言いがかりだと思う人もいるかもしれませんが、私がこんな思いをしなければいけないのは安倍晋三のせいであり、小泉純一郎のせいであり、自民党のせいであり、公明党のせいであり、民主党のせいであり、財界のせいなのです。そのことを声高に言えるような労働組合運動をつくっていきたいものです。

(文責 contack)