朝日新聞の言う民主主義って何なんだ

昨日の朝日新聞に載っていた、ちょっとあきれた記事。根本清樹さん(編集委員)のコラムです。

政態拝見 「大連立」余波 政略極まる中選挙区制

(略)

 政治改革とは何だったのか。せめてそのことを踏まえた議論をしたい。
 もとよりその核心は、小選挙区制の導入にあった。
 2大政党による政権交代のある政治を実現する。
 有権者が選挙を通じ、直接に政権を選択できる政治を実現する。
 これらの目的にかなう仕組みが、小選挙区制だった。
 民意のうねりや変化を実際よりも大写しにする小選挙区制のパワーは、05年の小泉郵政総選挙で私たちが思い知ったところである。
 これに対し比例代表制中選挙区制は民意の分布を忠実に反映する分、振幅は小さい。55年体制下では自民党一党支配が永久に続くかに見えた。政権づくりは派閥間の合従連衝が担い、有権者の関与は間接的だった。

 要は民主主義には対照的な二つのタイプがあり、政治改革はその一方を自覚的に選びとる営みだったということである。
 それを旧に復そうとするなら、それなりの大議論を覚悟しなければならない。水面下の仲介や、密室の会談で片づけられてはたまらない。

(略)

政治改革とは何だったのか」って言うけれど、これは政治改革を選挙制度の問題にすりかえた朝日新聞を始めとするマスコミにも問われるべきことじゃないでしょうか。
根本さんには「55年体制下では自民党一党支配が永久に続くかに見えた」らしいのですが、55年体制以降今日までに、政権交代した総選挙は最後の中選挙区制だった93年だけです。それ以降、小選挙区比例代表並立制で行われた総選挙では一度も政権交代は起こっていません。小選挙区比例代表並立制が導入されてから与党が得票率で過半数を超えたのは2005年の選挙が初めて(しかも小選挙区部分では自公合わせても得票過半数には届かなかった)ですから、「民意の分布を忠実に反映する選挙制度だったら政権交代はすでに起こっていた可能性は高いのではないでしょうか。
知ってか知らずかわかりませんが、はっきり言って根本さんの主張は事実を無視したごまかしの議論です。そもそも民意が反映しない小選挙区制は反民主主義的な選挙制度であって、民主主義の一つのタイプだなんて言えません。間接民主制だからと言って国会の議席が民意とかけ離れても構わないわけないですよ。
比例代表制中選挙区制は民意の分布を忠実に反映する分、振幅は小さい」そうですが、結構なことです。多くの人が望めばそれを反映する結果になるのは当然ですが、変化を望む人が少ないのに結果には大きく表れたらおかしいじゃないですか。振幅が小さいか大きいか、それは有権者の判断です。そして民意は本来多様なはずなのに、それを無理矢理2つにまとめようとするから、過半数の得票を得られない勢力がずっと政権を握っているというゆがみにつながるんじゃないでしょうか。
結局、根本さんは小選挙区制がいいのか中選挙区制比例代表制)がいいのかという問いには答えようとしていません。密室政治を批判するのも結構ですが、誰もが批判して当たり前のことは言えるのに、肝心のことには触れない。大事な焦点をぼかす役割を持ったコラムだと思います。
このコラムには、二人の人がかぶった密室政治と書かれた箱の中から「民意」と「小選挙区制」と書かれた紙がヒラヒラと落ちてくる挿絵がついていました。奇妙なコラムを象徴するような奇妙な挿絵です。密室政治によって民意も小選挙区制も失われるということでしょうか?冗談じゃない。小選挙区制こそが民意を奪う最たるものじゃないか。

(文責 contack)