派遣・請負・ワーキングプア!?「雇用の変化」はなぜ起きた?(2)

2.貧困と格差の原因 −「新自由主義」―

1)1995年、日経連(当時)は、「新時代の『日本的経営』」という経営・雇用方針を発表します。

それまでの「終身雇用」を見直し、新たな「人材の活用法」を呼びかけたのですが、これは労働者を3つのグループに分ける事でした。
それは・・・
[1]長期蓄積能力活用型グループ
[2]高度専門能力活用型グループ
[3]雇用柔軟型グループ
という分け方です。

具体的にどのような分類になるのか、当時の財界の方のコメントを…。

・・・大企業が生き残るためには、どういう形であるべきか。トップの能力が重要なのは無論ですが、そのトップを支える極めてブリリアントな幹部要員、参謀本部が必要です。
ほんの一握りでいいが、人柄が良いなんてことではなくて、徹底的に勉強してきた人でなければならない。[1]
それからマネジメントのプロと大量のスペシャリスト集団。
これも一括採用した正社員の中から、企業が育てればよいなどという生半可なものではなく・・・現時点で必要な人材を、その人材が要求する金額で採るとなれば、契約社員のような形になって、これだけでも新卒一括採用は崩れるしかないのです。[2]
あとはロボットと末端の労働力ですが、[3]賃金にこれほどの差があるのでは、申し訳ないけれど、東南アジアの労働力を使うことになるでしょう。
そういたしますと、学生諸君には参謀本部を目指して大企業にチャレンジするなどとんでもない話。マネジメントのプロなり、スペシャリストになってもらわなければならないのです。

櫻井修・住友信託銀行相談役・経済同友会教育委員会会長
(肩書はいずれも当時)
(私大学生指導担当者研修会での講演 1995年7月)

財界はこのように、日本人のはたらき方に変化を起こそうとしました。
10年前からこのような事が着々と準備されてきたわけです。
ちなみに私は95年当時、中学2年生でした。みなさんはどうでした?

2)この「新時代の『日本的経営』」の根っこにある考え方、それが「新自由主義」です。

ここでも「有名人」のコメントを少し。

経済格差を認めるか認めないか、現実の問題としてもう我々には選択肢はないのだと思っています。
みんなで平等に貧しくなるか、頑張れる人に引っ張ってもらって少しでも底上げを狙うか、道は後者しかないのです。
米国では、一部の成功者が全体を引っ張ることで、全体がカサ上げされて、人々は満足しているわけです。実質賃金はあまり伸びないけれど、それなりに満足しているのです。

竹中平蔵・慶応大学教授(当時)
(「日経ビジネス」2000年7月10日号)

これは新自由主義という経済思想の、まさに真髄です。
「トリクル・ダウン・エフェクト(trickle-down effect)」、訳すと「通貨浸透効果」・・・「雫が落ちる効果」という意味ですが、要は「金持ちが溢れるくらい儲かれば、そのうち雫がポタポタ落ちてくる。貧乏人は口を開けてそれを待ちましょう。」ということです。

●こんな社会にするためには教育システムも変えなくては・・・というわけで。

できんものはできんままで結構。
戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることばかりに注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。
・・・限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。

三浦朱門・元教育課程審議会会長
斎藤貴男著『機会不平等』でのインタビューより)

三浦さんはいわゆる「ゆとり教育」を推進した人で、「算数、数学嫌い」発言でも有名ですが、彼が言わんとしているのは、勉強しなくていい、ということではありません。

また、「ゆとり教育」というのは問題の本質をボカす表現でもあります。

要はスーパーエリートによる社会・経済の独裁を落ちこぼれ(という名の庶民)が邪魔するな、ということです。

3)そして「改革」が始まります。
この考え方を政府・与党も積極的に取り入れるのです。
一番最初にこのモデルを政治に取り入れようとしたのが、中曽根元総理大臣。

一番うまく国民の同意を取り付けたのが小泉元総理大臣。

一番下手だったのが安倍前総理大臣。

政治家がよく言う「構造改革!改革断行!」というのは、これまで法律に基づいて行われてきた雇用・福祉・医療・教育サービスなどを、法律を変えて民間の経営モデルを取り入れたり、あるいは行政のかわりに、大手民間企業(外資系を含む)がほとんど直接的にそのサービスを行えるように、法律を変えていくことです。
人間が生きていくのに必ず必要なモノはいい儲けになります。

そして、はたらき方に関わる法律の改悪もどんどん進められていきます。

1996年
労働者派遣法「改正」(対象業務16から26へ拡大)

1998年
労働基準法「改正」(契約期間上限を3年に/裁量労働制大幅拡大など)

1999年
職業安定法「改正」(有料職業紹介取扱い職業を拡大)

2002年
「3年契約制」の対象拡大(大臣告示「改正」)
専門業務型裁量労働制対象業務に8業務拡大(大臣告示「改正」)

2003年 
労働基準法「改正」(契約期間3〜5年に/企画業務型裁量労働要件緩和)
労働者派遣法「改正」(物の製造への派遣解禁などいっそうの自由化)
職業安定法「改正」(民間職業紹介要件緩和/求職者手数料規則の緩和)

このルールの変化がどういう影響を私たちに与えたか、冒頭の4つの特徴で述べた通りです。

4)そしてこのルール変更で一番儲けたのが人材派遣業と、派遣会社を子会社として作った大手企業です。

ここで皆さんにちょっとクイズを…。
( )の中を埋めて下さい。
(1)の(2)は02年で200兆円で(3)は約9兆円であった。
しかし、07年は(2)が250兆円だったが、(3)は18兆円と倍増し、過去最高となった。



もう分かりますね。
1は東証一部上場企業
2は売上高
3は経常利益
です。

そりゃ儲かるわけだ。
だってキヤノンのインクカートリッジの中には、マゼンタじゃなくて派遣社員の血が入ってるそうですもん。

5)「雫」が落ちてくる・・・ことはありません。

竹中さんの言う「全体のかさ上げ」というのは、嘘以外の何物でもありません。

株主への配当や役員報酬へ行ってしまうというのが、この間の現実なのです。

というか、雫を落とさずに吸い上げたからこそ、今日の史上空前の企業の繁栄があるのです。
雫を落とす先も、その量も、彼らは最初からきちんと決めていたのです。

その流れは今後も続けていくようです。

6)次の標的は…。
彼らは労働者だけでなく、下請けや外注を担う中小零細企業に対する仕事とコストもギリギリまで削ります。
さらに減価償却に対する課税をはじめとした「大企業に有利な」税制改悪のせいで、ますます中小企業の体力とそこで働く人たちの賃金は削られてきています。

笑えない話ですが、小さな印刷会社の中には、明日の仕事をするためにサラ金に行くところさえあります。

そのお金で紙屋から紙を買って仕事をするのです。

我々の世界では支払いが滞ると、紙でさえ現金決済しないといけません。

取引上の信用というのは本当に大事で、これがないと銀行からの借入も出来ません。
だからサラ金とかヤミ金に手を出してしまうんですが…。

経団連の「08年版経労委報告」では、中小企業への資本の移動を選別して、大企業の利益にかなうような整理再編をすすめるべきだ、とありますから、借金して紙を買う印刷屋も増えていくことでしょう。

派遣・請負・ワーキングプア!?「雇用の変化」はなぜ起きた?(3)へ続く。

(文責 sa)